
中国、等級保護制度が独立した法令として運用開始へ?──厳格対応が求められる時代に
こんにちは!クララのクロスボーダービジネスチームです!
中国における情報セキュリティ制度「等級保護制度(MLPS)」について、今後の運用に大きな影響を与える動きがありました。
2025年5月、中国国務院が発表した「2025年度立法工作計画」において、《网络安全等级保护条例(等保条例)》の制定がリストアップされたのです。
この発表により、これまで行政規則として運用されてきたMLPSが、正式な条例として法的拘束力を持つ可能性が高まりました。本記事では、その背景と企業への影響、そして備えるべきポイントについてわかりやすく整理します。
この記事の目次
等級保護制度(MLPS)は何を目的とした制度か
MLPSは、情報システムの重要度に応じて1級から5級までの等級を設定し、それぞれに必要なセキュリティ対策を定める制度です。
対象となるのは、政府機関や金融、医療、製造業などの分野で、特に社会インフラに関わるシステムには高いセキュリティ基準が求められます。
実際、多くの外資系企業も中国国内での事業運営にあたって、この制度への準拠を求められてきました。
ただし、これまでのMLPSはあくまでも公安部などによる行政通知や技術ガイドラインに基づく「制度」であり、法律として明文化されたものではありませんでした。
現在の位置づけ | 行政規則・部門通知に基づく制度運用 |
担当機関 | 公安部(MPS)、工業情報化部(MIIT)など |
法的根拠 | 《信息安全等级保护管理办法》(2007年発布)など |
関連法との関係 | 《サイバーセキュリティ法》(2017年施行)に準拠 |
現行制度にも罰則はあるが、直接的な法的拘束力は限定的
「制度に従わなければ罰則があるのでは?」という疑問を持たれるかもしれません。
確かに、現時点でもMLPSに関連する義務違反に対しては、《サイバーセキュリティ法》などを通じて罰則が科されることがあります。
法令 | 主な内容 | 想定される処分 |
《サイバーセキュリティ法》第21条 | 等級保護制度に基づく対策義務 | 改善命令、罰金(最高100万元)など |
第59条 | 義務違反に対する行政処罰 | 警告、業務停止など |
第66条 | 情報漏えい・システム侵害などが発生した場合 | 刑事責任の追及 |
ただし、これらの措置はあくまでも他の法律に基づいたものであり、「等保制度そのもの」を違反とする明確な規定が存在していたわけではありません。形式的な不備や軽微な違反に対しては、行政指導や是正勧告にとどまるケースも多く見られました。
「等保条例」の制定で見込まれる変化とは
今回の立法計画では、MLPSをより厳格に運用するため、条例として明文化する方針が示されました。
条例とは、行政機関が定める国家レベルの法令であり、法的拘束力や罰則規定を直接持つことが特徴です。
項目 | 現行制度 | 条例制定後に想定される変化 |
法的位置づけ | 行政通知やガイドラインによる運用 | 国家条例としての明文化 |
拘束力 | 準強制的(公安部による行政指導中心) | 条例違反としての法的処罰が明確化される可能性 |
対象範囲 | 主に重要インフラ運営事業者 | 一般企業やクラウドサービス利用者にも拡大可能性 |
処罰手続き | 他法令を経由した処罰 | 条例に基づく直接的な罰則が盛り込まれる可能性 |
制度違反が「指導の対象」から「法令違反」となることで、企業にとってのリスク管理の重要性がさらに増すことになります。
企業として今からできる対応
等保条例が実際に施行された場合、今までのMLPS2.0への対応状況がそのまま法令順守の有無に直結します。
特に中国国内に業務システムを持つ企業や、クラウド上で現地向けサービスを展開している場合は、下記のような点を早めに確認しておくことをおすすめします。
- MLPS等級の登録が必要なシステムを運用していないか
- 測評(セキュリティ評価)を受けているか、記録が整備されているか
- 社内規程やセキュリティ文書が要件を満たしているか
- クラウドベンダーやIDCなど、委託先のMLPS対応状況を把握しているか
「現時点で問題ないから大丈夫」と考えず、制度の動向をふまえた継続的な見直しが求められます。
参考情報・出典
- 国務院《2025年度立法工作計画》 https://www.gov.cn/zhengce/content/202405/14/content_6940879.html
- 《中华人民共和国网络安全法》(2017年施行) http://www.npc.gov.cn/zgrdw/npc/xinwen/2016-11/07/content_2001605.html
- 《信息安全等级保护管理办法》(2007年 公安部令第43号)https://www.mps.gov.cn/n2255079/n2255275/n2255277/c6235790/content.html
おわりに
MLPSの条例化は、制度としての成熟に向けた大きな転換点です。
これまで「指導」や「準拠」で対応していた部分に対し、今後は明確な法的義務が課される可能性があるため、影響を受ける可能性のある企業は早めの準備が鍵となります。
制度の詳細や現地での対応方針についてご不明な点があれば、当社までお気軽にご相談ください。