2025年の崖を乗り越えるための切り札になるか?第三の選択肢「オンプレミス as a Service」が求められる背景とは
本記事は2020年4月にITmedia エンタープライズ(https://www.itmedia.co.jp/enterprise/)へ掲載したコンテンツの転載です。
2025年の崖を乗り越えるために、ITインフラの刷新が急務になっている。そのような中、オンプレミスやパブリッククラウドなどに続き、第三の選択肢が登場した。
企業ITインフラには「オンプレミス」と「パブリッククラウド」の選択肢がある。そして今、上記に加えて“第三の選択肢”が登場した。それが「オンプレミス as a Service」だ。オンプレミスのシステムリソースを、あたかもパブリッククラウドのように利用できるスキームとして注目を集める。こうしたトレンドの口火を切ったソリューションとしては、例えばHewlett Packard Enterpriseが2018年に発表した従量課金型のオンプレミスシステムともいえる「HPE GreenLake」やDell Technologiesが2019年に発表した「Dell Technologies on Demand」が挙げられるだろう。
オンプレミスに置かなければならないシステムの調達や運用をどうモダナイズするかを考えたとき、第三の選択肢には他にはない魅力がある。
この記事の目次
「クラウドに移行」で2025年の崖は越えられるのか
経済産業省は2018年に公開した「DXレポート」で、レガシーなシステムを抱え続けることで、2025年には日本企業全体で年間最大12兆円にも上る経済損失が想定されるとする警告を発表した。「2025年の崖」とも呼ばれる日本企業存続の分水嶺(れい)を前に、取り残されたレガシーシステムのクラウド移行やアプリケーション改修は、企業にとって重要課題と言っても過言ではない。
従来通りのオンプレミスシステムは、調達予算さえ確保できれば既存システムのリプレース先としては容易で、購入後のランニングコストも固定できる。しかしビジネス要件が急激に変わる可能性がある現在において「5年後のリソースが予測しにくい」、あるいは「高額なハードウェアの新規購入は予算計上が難しい」「納品や拡張に時間がかかる」など多くの問題が存在する。
オンプレミスのレガシーなシステムをパブリッククラウドに移行する方法も検討できる。政府の調達基準に「クラウド・バイ・デフォルト原則」が発表されるなど、多くの場面でパブリッククラウドへの移行を推奨する意見も多い。
パブリッククラウドは、「初期投資を抑えられる」「ハードウェアの固定資産を持つ必要がない」「すぐにITインフラを使える」「ハードウェアの構築から設計、運用、保守までが不要になる」などの利点がある。新規に構築するシステムにおいては非常にメリットが大きい。だが、オンプレミスのレガシーなシステムをパブリッククラウドへ移行する場合はどうだろうか。
実はパブリッククラウドは、移行元のシステムが利用するOSやミドルウェアのバージョンが古い場合、単純な移行では対応できないケースがあるのだ。レガシーアプリケーションのリプレースを考えたとき、この点がネックとなる。またアプリケーションの改修が必要になる場合には別途検証が必要となり、移行工数がかさむことが考えられる。データ通信量に応じた課金体系のパブリッククラウドを利用する場合は、アプリケーションによってはかえってコストが高くなることもあり、注意が必要だ。
このようにオンプレミスのレガシーシステムをパブリッククラウドに移行する場合、システムによっては難航する可能性がある。特に長年にわたって利用され、カスタマイズされているような個別アプリケーションは要注意だ。
守りのITと攻めのITでインフラに求める要素が異なる
「2019年にNutanixが発表した企業のクラウド導入動向に関するグローバル調査によると、『一部のアプリケーションをパブリッククラウドから再度オンプレミスに移行した』という回答が73%に上ったというデータがある」と話すのはインターネット黎明(れいめい)期から20年以上にわたって企業のITインフラを提供し続けてきたクララのサービスデザインスペシャリストである小松恭兵氏だ。この調査結果は、一様にパブリッククラウドに移行することが必ずしも正解ではない、ということを示すものといえる。
では、オンプレミスやパブリッククラウドをどのように使い分ければいいのだろう。小松氏は、Gartnerが提唱した「守りのIT(モード1)」と「攻めのIT(モード2)」にならった使い分けが重要だと説明する。
「全てに万能なITインフラはありません。『オンプレミスがダメ』『クラウドが良い』という議論ではなく、利用するアプリケーションの特性に応じた使い分けが重要です」(小松氏)
基幹システムのようなこれまで企業をバックグラウンドで支えるアプリケーションであるモード1は、安定運用が求められる。そのため、クラウドネイティブな最新技術を使うと、互換性問題において余計なコストが発生するケースが多い。一方、ITを活用した新たなビジネスや企業の強みを高めるためのアプリケーションを指すモード2は、環境変化への柔軟性や高速性が求められるため、従来のオンプレミスサーバで運用することは適していない。
昨今、新たなビジネスを展開し、新たな価値を提供するためにモード2に取り組む企業が増加し、柔軟性や高速性に対応しやすいクラウドサービスを使うことが増えた。結果、効率的な運用が可能なことやリソースの拡張性、クラウドネイティブな考え方が一般企業でも理解されてきた。
そのトレンドをくんで、守りのITでもクラウドネイティブな考え方で見直す機運が高まっている。このニーズに応えるべく登場したのが、前述した第三の選択肢のオンプレミス as a Serviceだ。
従来のオンプレミスシステム向けのように、数年分のリソース計画を立ててハードウェアを購入する場合と異なり、オンプレミス as a Serviceはリソースをサービスとして利用可能だ。そのためオンプレミスシステムの課題である、予測が難しいリソース計算や予算計上、拡張性などの課題をクリアできる。その上、従来のシステム仕様や運用管理方法を大きく変更する必要がないため、モード1に求められる安定稼働を実現できるのだ。まさに、オンプレミスとパブリッククラウドの良いとこ取りを実現している。
オンプレミス as a Serviceの中でHCIに特化、その実力とは
オンプレミス as a Serviceの中でもHCIに特化してサービスを提供するのが、クララだ。VDIやスケールアウト型のアプリケーションの運用基盤などの用途でニーズの多いHCIを、初期投資を抑えて利用できるとあって注目を集める。
「弊社が展開する『Clara Cloud』は“HCI as a Service”と銘打った、初期費用0円から使えるHCIサービスです。オンプレミス as a Serviceのようにオンプレミスとクラウドではなく、HCIとパブリッククラウドの良いとこ取りができるサービスです」と小松氏は述べる。
HCIはx86サーバ、SANスイッチ、ストレージ、ハイパーバイザーを1つのコンパクトなハードウェアに集約した仮想化基盤だ。統合管理により運用負荷を削減し、箱を開けて約30分で仮想化環境を構築でき、ノードを追加するだけでリソースを増やせる拡張性を備え持つ。
またHCIは主要なパブリッククラウドが対応しない古いOSのレガシーシステムでも容易に移行できる。さらにサーバとSANスイッチ、ストレージが一体化されているため、パブリッククラウドに比べて非常に高いI/O性能を実現する。またアクセス頻度の多いアプリケーションを高速に処理しても、従量課金で利用料金が高額になる心配もない。
Clara Cloudは、HCI市場をけん引してきた企業の一つであるNutanixのソフトウェアを採用している。
「Nutanixはデータ分散による応答遅延を防ぐデータローカリティ機能を持ち、I/O性能を維持する仕組みを備えます。このため、VDIやトランザクションの多いデータベースアプリケーションなどのように高いI/O性能を求められるシステムでも安定して利用できる特徴を持ちます」(小松氏)
さらにClara Cloudの大きな特徴となるのが、NutanixのHCI機能だけでなくデータセンターのラック、電源、ネットワークスイッチ、運用管理、サポートまで全てがサブスクリプション方式の利用料金に含まれている点だ。
「Clara Cloudは、高額な初期投資をすることなく2~3営業日という短期間で利用を開始可能です。データセンターにホスティングされたNutanixアプライアンスの運用やメンテナンス、バージョンアップなどは全て料金に含まれており、HCI as a Serviceとして利用できます。こうしたものをご活用いただくことでITインフラの運用管理にかかっていたリソースを本業に集中、専念してほしいと思っております」(小松氏)
オンプレミス as a Serviceが2025年の崖を乗り越えるための鍵に
このまま何もせずにオンプレミスのレガシーなシステムのまま2025年を迎えるとどうなるだろうか。IT人材の不足も深刻化することが懸念される状況ではレガシーシステムのメンテナンスすら困難になる可能性がある。だからといって、レガシーシステムのリプレースを無計画で実施してしまうと「オンプレミスで拡張しにくい」「クラウドに移行してみたら、思ったよりコストがかかった」といった落とし穴にハマってしまうかもしれない。
それらの問題を回避するために、自社システムの棚卸しをして、モード1、モード2とシステムを使い分けることが必要だろう。そしてアプリケーションに応じて、オンプレミスシステムやパブリッククラウドなどの選択肢から適切なプラットフォームを見極めることが重要になる。
オンプレミスとクラウドの両方の利便性を持つオンプレミス as a Serviceは、コスト最適化の観点から企業にとって大きなメリットを持つ。パブリッククラウドにリフトできないシステムであってもオンプレミス as a Serviceのアプローチであれば、少なくとも初期投資を最小化しながらプライベートクラウド化を実現できる。オンプレミス as a Serviceは、身動きをとりにくいレガシーシステムの移行問題に一石を投じるソリューションといえるだろう。2025年の壁を乗り越えるための選択肢として、重要な鍵を握るかもしれない。