BJnetworks蔡さんインタビュー(1) 中国ビジネスに新型コロナウイルスがもたらした変化について
中国武漢で最初に感染拡大が確認され、そして中国が最初に封じ込めに成功したかに思われていた新型コロナウイルス。しかし先月中旬ごろになって、収束していたと見られていた北京で感染者が急増する事態に見舞われました。
新型コロナウイルスは、日本のビジネス環境に大きな変化をもたらしましたが、中国は、中国経済に対する影響はどうなっているのでしょうか?北京でITインフラサービスを展開しており、クララのビジネスパートナーでもあるBJnetworks(https://www.bjnetworks.com.cn/)の蔡(サイ)さんに、そのあたりをインタビューをしてみました。
中国で取り組まれていた感染症対策
インタビュアー(以下 イ):
中国政府は新型コロナウイルスの封じ込めのため、徹底した施策を打っていたイメージですが、実際はどうなのでしょうか?
蔡さん(以下 蔡):
2月~5月までは外出規制も厳しく、入館/入室の度の検温や申請が必要でしたが、6月になると一変し、規制は一気に緩和されました。
ビジネスでいうと、オフィス面積が1人あたり2.5m2以上ない会社には出社してはいけないといった制限や、特別申請をしないと稼働してはいけないといった厳しい規制もありましたが、これも6月には緩和されました。
そのため、満員電車も渋滞もコロナ前と同様くらいまで戻っていたのですが、先日の新たな感染拡大を経て、また警戒レベルが上がりましたね。北京がロックダウンとなるかはまだ分かりませんが、新たな流行となる前に抑え込めるように規制がかかりましたね。
イ:
具体的にはどんな規制がかかったのでしょうか?
蔡:
具体的な規制は下記の通りです。項目としては日本とそう変わらないと思いますが、(日本の自粛要請と比べて)渡航の禁止や営業停止・マスク着用の義務化など、徹底の度合いが中国の方が厳しいかもしれませんね。
- 旅行・海外渡航の禁止
- 外出規制
- カラオケ、映画館、娯楽施設などの営業停止
- 宅配の対面受け渡し禁止
- 検温/入館申請の徹底
- 感染拡大防止アプリの活用(こちらの記事でご紹介)
- 条件を満たさない限り、オフィスへの出社禁止
- マスク着用の義務化
- 外食時の人数制限:3人以下に
イ:
内容や方向性に大きな違いがあるわけではなく、規制の厳しさや強制力が一番大きな違いがあるようですね。
中国経済への打撃は大きいのか
インタビュアー(以下 イ):
日本はコロナショックによる経済への影響はリーマンショックを超えると言われていますが、中国ではどうでしょうか?
蔡さん(以下 蔡):
中国でも打撃はかなりあります。外出規制中、純粋にお金を使う機会が減ったことによる経済活動分の損失だけでなく、消費マインドにも変化があったと思います。具体的には、貯金する人が多くなったと感じます。
イ:
一部の日本のテレビでは、中国において外出規制の緩和とともに観光地に人が流れ混んでいる報道などがされていました。
蔡:
それは、一部の富裕層のみですね。一般層は保守的になっていると思います。
中国はこれまで、まだまだ成長していく前提での消費経済でしたが、今回のコロナをきっかけに富裕層を除く一般層が、未来への不安感を感じるようになったのではないかと推測しています。
イ:
コロナの影響で、先行きが不安になり、保守的になったということでしょうか?
蔡:
コロナはあくまできっかけですね。
中国は今、対アメリカ、対インドとの国際関係・摩擦の影響も受けています。それ単体では消費活動を控える程の不安感を持つことはなかったのですが、コロナがきっかけで、住宅ローンが返せなくなった人や、破産した人の情報もSNSなどで流通し、大きな問題として意識し始めたのでしょうね。
イ:
コロナがきっかけとなり、中国の消費経済を揺るがすほどの不安が発生しているのですね。
蔡:
そうですね。そしてこれは個人のマインドだけでなく、ビジネスにもいえます。
今は保守的な決定を下すことが多いと感じます。コスト削減の意識が強くなり、新規投資は減り、リスクを抑えて運用することに注力する企業が多くなるのではないでしょうか。
イ:
日本では、消費を活性化するための給付金や、中小企業向けの支援が国から出ていますが、中国はいかがでしょうか?
蔡:
中国でも、政府から消費を促す施策は出ています。
例えば、車(EV)の購入促進ですね。中国の都市部では車の交通量制限のため、1年間に新しく発行するナンバープレートの数を10万枚と制限していました。
しかし、今回のコロナを踏まえて消費を活性化させるため、EVであれば2万枚追加で発行する決定を下しました。(※編集注:北京のみで12万枚、上海も同様の施策があるそうです)
また、ECサイト等で生活用品の少額割引キャンペーンも実施されており、割り引いた金額を政府が負担するなどといった政策も実施されています。
イ:
中国政府もコロナによって落ち込んだ個人の消費活動の活性化に取り組んでいるのですね。他に企業向けの施策はありますか?
蔡:
税金の一部免除はやっています。他にも、申請があれば社会保険の会社負担分は一定期間国が負担する仕組みもあります。
また、製造業(工場)のテナント代は、申請があれば数ヶ月分免除、教育施設(幼稚園等)のテナントも一部免除施策もあります。
あとは、中小企業向けの銀行融資の審査緩和ですね。とても通り易くなっていると聞いています。
リモートワークは広がっていかない?
インタビュアー(以下 イ):
日本では、この新型コロナウイルスの影響で、一気にリモートワークの整備が進むのではと言われています。中国も同様に、リモートワークのカルチャーが浸透していくのでしょうか?
蔡さん(以下 蔡):
それはないと思います。
中国は製造業などが多く、リモートだと仕事にならないケースが多々あります。
IT業界は家でリモートワークという話もありましたが、リモートワークは管理がしづらいですよね。それに、人が集まった方が効率が良い。コロナ対策として仕方がないからリモートワークにしていましたが、以前は集中すれば2~3人が1時間話し合えば終わっていたのが、リモート期間中はコミュニケ―ションコストもかさみ、何倍も時間がかかった印象です。
イ:
コミュニケーションコストが嵩みがちなのはリモートワークのデメリットの1つだと思いますが、”何倍も”というほど大変だったのでしょうか?
蔡:
これは、中国の企業カルチャーの影響があるかもしれません。
もともと中国は日本と比較した場合に、ビジネス上での決定における承認フローが、堅く決まっていないところがあります。
例えば、商談している最中に自分の決裁権限を超える内容が出てきたとき、中国では持ち帰ったり後から申請などはせず、「確認してくるからちょっと待ってて」とその場で確認します。
このような直接現場で確認していた時と比べると、何倍も手間も時間もかかってしまうのは、仕方がないですね。
イ:
リアルな場で居合わせるからこそのスピード感が、リモートではなかなか生まれにくい、ということなのでしょうか。全体として、リモートワークにあまり良い印象はないのでしょうか?
蔡:
そうですね、中国ではネガティブな印象の方が強いと思います。
ネガティブイメージのもう一つの要因としては、中国は人件費が安いので、今まで属人的に進めていた仕事が、リモートになることにより省略され不要となったり、システム化されたりと、仕事がなくなるのではといった不安の声がSNSで一気に広がったことがあります。
イ:
それは日本でもありますね。リモートに切り替えることにより、それまであった仕事のフローや価値観が変わり、ポジション自体がなくなったりといったことが起きています。
蔡:
中国もそれがあり、日本より顕著だったのではないかと思います。
また、全てがオンライン化することにより、オフラインでこそ価値を出していた仕事・人材の価値が下がることも懸念されていました。対面特化の教師から、オンライン講座の教師へ人気が移っていく、等ですね。
この変化を良しとするか、ネガティブととるかは人それぞれですが、全体的にネガティブな印象の方が強いように感じます。
イ:
ネガティブな印象が強いことが、リモートワークが広がって行かない原因なのでしょうか?
蔡:
それもあるのですが、中国ではそもそも、コロナはあったけど、また元の生活がちゃんと戻ってくる、という意識があるんです。今はまた少しぶり返してしまいましたが、またちゃんと封じ込めれば、元の生活に戻るという前提の意識が中国全体にはあると思います。
今回このインタビューでお話しさせていただいていて強く感じるのですが、日本はコロナは終わらないと考えている方が多いんですね。そこに逆に驚きました。
イ:
言われてみれば、確かにそうですね。日本は、「アフターコロナ」「withコロナ」「ニューノーマル」という言葉があるように、数年単位でコロナと付き合っていく、コロナありきでビジネスを運営していくというのがビジネス的にも一般的にも普通の考え方になっていると思います。逆に中国は、封じ込めが完了すればコロナ前と同じ生活に戻れる、という認識なのですね。
蔡:
そうです。もちろん、また流行したらどうしようという不安はありますが、あくまで単発の災害としての意識が強いです。そりゃあリモートワークも定着しないはずですよね。
中国でもデジタル化の流れは加速していく
蔡さん(以下 蔡):
リモートワークの定着は一気には広がらないかもしれませんが、オンライン化、デジタル化が加速しているのは中国も同様です。
インタビュアー(以下 イ):
中国、特に北京などの都市部はもともとデジタル化が進んでいる印象ですが、さらに進むということでしょうか?
蔡:
そうですね。進んでいるところは、日本の数歩先を行っている部分も多いです。ただ、全ての業種業態がそうではないのは、中国も同じです。
今回のコロナショックを経て、オンラインでのチャネルを持たない業種・業態のビジネス・企業が、オンラインシフトしなければならないという意識が強くなりました。IT関連企業に関わらず、マーケティングも、営業活動も、サービス提供もデジタル化の時代ですね。
イ:
経済打撃の緩和のためのコストカットや、コロナショック第二波に備えるためのオンラインシフトの推進はどこでもおきているのですね。
コロナショックを越えたあと、ビジネスを発展させられる環境をどう整えるかが、大切になっていきますね。