クララが明かす、オンプレ/パブリッククラウドの使い分けと新たなクラウドの潮流「HCI as a Service」

2020年4月13日にマイナビニュース「企業IT チャンネル」(https://news.mynavi.jp/kikaku/20200413-1012301/)に掲載された記事を転載しています。

IT導入において、クラウドはいまや “当たり前の選択肢” となっている。もちろん、クラウドにもメリット・デメリットはある。運用面の効果が想定以上にあったという声をよく聞くが、一方でコスト面の期待値が高すぎたという反省を耳にすることも少なくない。そうした背景があってか、「クラウド移行の正しい期待値」と題してマイナビニュースが2020年3月3日にオンライン配信したウェビナーは、100名以上の方が聴講した。本稿では同ウェビナーより、オンプレとパブリッククラウドの使い分けをテーマとし、第三の選択肢となる新たな潮流について講演したクララのセッションの模様をお届けする。

パブリッククラウド⇒オンプレミスの回帰が進んでいる。なぜ?

クララは、「次の時代を道づくる」という企業理念のもと、1998年というインターネット黎明期から他社に先駆けホスティングサービスを提供してきた。近年では中国・アジア各国のインターネット事情や法制度・規制などのノウハウを持つ「アジアのインターネットを知るプロフェッショナル」としての地位を確立している。

そんなクララのセッションでは、同社 サービスデザインスペシャリストの小松 恭兵 氏が登場。「クラウドの新潮流! “クラウドネイティブなオンプレ”とは?」と題して講演を行った。

3月に配信したウェビナーのテーマは「クラウド移行」であるが、小松 氏は講演の冒頭、「クラウドありき」の話はしないと言及。理由を交えてこのように説明する。

図1  Clara Cloudと従来のITインフラ(レガシーサーバ、NutanixのHCI、IaaS)の構成要素の比較

クララ株式会社 サービスデザインスペシャリスト 小松 恭兵 氏

「クラウド化は間違いなく加速しています。黎明期こそモバイルアプリやソーシャルゲームなどのサービス基盤に用途が限られていましたが、ここ数年でいわゆるエンタープライズ用途に活用が広がっています。米国国防省が100億ドルプロジェクト『JEDI』にAzureを採用したり、国内でもふくおかフィナンシャルグループが勘定系システムをGCPに移したりなど、”堅い組織” での採用例が増えてきたことが特に印象的です。ただ、実は一方で、グローバルではパブリッククラウドに移した環境をオンプレミスに回帰させるという動きも出始めています。パブリッククラウドは確かに優れた技術です。しかし、”すべてに万能なITインフラ” では決してありません。普及に伴ってこの事実が周知されてきた。それが、回帰という動きが生まれた要因でしょう。」(小松 氏)

同氏が述べた傾向は、調査でも数値として表れている。調査会社のVanson Bourneは2019年、Nutanixの委託のもと、IT意思決定者2650人に対して調査を実施。これをまとめた報告書「Nutanix Enterprise Cloud Index 2019」によると、「一部アプリケーションをパブリッククラウドからオンプレミスに戻した」と回答する方の割合が73%にも上ったという。

「クラウドが一般化したからこそ、必ずしもパブリッククラウドである必要がないアプリケーションが存在したこと、あるいはオンプレの方が適しているものがわかってきたことが、回帰の進んでいる理由でしょう。調査結果から回帰されたアプリケーションをみると、従来からあり社内用途で使われているアプリケーションが中心となっていることがわかります。」(小松 氏)

図1  Clara Cloudと従来のITインフラ(レガシーサーバ、NutanixのHCI、IaaS)の構成要素の比較
図1  Clara Cloudと従来のITインフラ(レガシーサーバ、NutanixのHCI、IaaS)の構成要素の比較

小松 氏は、適材適所の考えのもと、すべてをパブリッククラウドに移すのではなくアプリケーションの特性に応じたインフラを選択する企業が増えてきていると述べる。 ※資料提供:クララ

「モード1」と「モード2」に分類してクラウド/オンプレを見極める

この潮流は、クラウドベンダーの動きにも表れている。AWSのOutposts、AzureのAzure Arc、GCPのAnthosなど、主要クラウドベンダーの多くが、この1年の間にパブリッククラウドとオンプレの双方を統合管理するためのサービスをリリースしたのだ。

ハイブリッド環境を用意することが1つの理想のITモデルだとして、どのような視点のもとでクラウド/オンプレに適しているアプリケーションを見極めればいいのか。

「一般的には、トラフィックの予測が困難、または変動が激しいアプリケーションの場合はスケーラビリティに富んだパブリッククラウドが有効といわれます。反対に、求められる処理性能やユーザーの需要予測が立てやすい場合ならば、オンプレの方が、コストメリットが得られやすいです。」(小松 氏)

しかし、同じアプリケーションであっても、企業によってその役割や重要度合いは異なる。”このアプリケーションはクラウドが適している”、そんなふうに画一的に切り分けることは困難だ。小松 氏はこの点について同調しながらも、切り分けにあたって持つべき視点があると続け、こうアドバイスする。

「基準となるのは、”守りのIT” である『モード1』、”攻めのIT” である『モード2』、この2つにアプリケーションを分類することです。従来の情報システム部門が管理するシステムなのか、事業部門が管理するシステムなのかで、システムの目的変わってくるため、インフラに求める適性も大きく異なるからです。」(小松 氏)

「モード1」と「モード2」の違い

「モード1」と「モード2」の違い

「モード1」は従来からあるアプリケーションと言い換えることができ、基幹系システムや情報系システム、業務系システムなどが該当する。一方、「モード2」に該当するのは、顧客向けのサービスの提供基盤やIoTサービスといった、事業価値に直結するアプリケーションだ。

「モード2」は、いかにして他のアプリケーションと差別化を図るかが鍵となる。したがって、サーバーレスやマイクロサービス、機械学習といった先進的な技術を積極的に実装するべきだろう。アジャイル型で柔軟にシステムを改修していくことも求められるため、クラウドの方が適している。

クラウド/オンプレの線引きが必要なのは「モード1」の方だ。小松 氏はこう語る。

「『モード1』は、標準化によって効率化やコストダウンを図ることが求められます。情報系システムについては、積極的にSaaSを利用するのが有効でしょう。ただ、基幹系システムや独自の業務系システムもクラウドが有効かというと、一概にそうだとはいえません。特に日本では個社でカスタマイズされることが多く、バージョンや仕様のコンパチビリティの問題でパブリッククラウドにそのまま移行ができないアプリケーションが多く存在します。アプリケーションの改修まで加味した移行コスト、そしてその利用用途を考えたとき、オンプレが適しているケースも往々にしてあるのです。」(小松 氏)

クラウドネイティブなオンプレ環境を実現する「Clara Cloud」

オンプレミスのシステムリソースを、あたかもクラウドのように利用できる。こうしたスキームのソリューションは、Hewlett Packard Enterpriseが2018年に発表した「HPE GreenLake」、Dell Technologiesが2019年に発表した「Dell Technologies on Demand」など既に市場に登場しはじめており、従来のオンプレやパブリッククラウドとは異なる新たな潮流として注目を集めている。

クララが提供する「Clara Cloud」もこうしたトレンドを汲んだサービスであるが、HCIのリーディングベンダーであるNutanixを基盤としているところに最大の特徴がある。

「弊社が展開する『Clara Cloud』は“HCI as a Service”と銘打った、初期費用0円から使えるHCIサービスです。クラウドネイティブの考え方を根源にもつHCIとパブリッククラウドの良いとこ取りができる、クラウドネイティブなオンプレサービスです。」(小松 氏)

既述のとおり、パブリッククラウドはアプリケーション次第でオンプレよりも高コストとなる。従量課金であることがその背景にあるが、「Clara Cloud」は固定の月額サブスクリプションで利用できるため、必要なリソースに沿ったプランを選択すればクラウドネイティブな利用法にてオンプレのメリットを享受することができる。

「『Clara Cloud』では、Nutanixをサブスクリプションで提供しているだけでなく、ラックスペース、電源、ネットワークスイッチといった必要不可欠な物理環境に加え、バージョンアップや障害対応といった保守運用もサブスクリプションに含まれております。お客様から見ると、パブリッククラウドと同様にハイパーバイザーより上のレイヤーだけを管理すればよいのです。」(小松 氏)

「モード1」と「モード2」の違い

「Clara Cloud」の概要。

「モード1」と「モード2」の違い
「モード1」と「モード2」の違い

HCIを自社で持つ場合と比べて管理領域を減らすことが可能だ。右図は3 TierとIaaS、HCI、Clara Cloudの比較表。クラウドと同等のスケーラビリティを持つインフラを、オンプレ同様に固定費ベースで利用することができる。

需要が予測できてなおかつ高い性能が求められるアプリケーションとしては、基幹系システムが代表例に挙げられる。基幹系システムは現在、多くの企業においてリプレースや刷新といった取り組みが進められている。その理由は、「2025年の崖」だ。

経済産業省は2018年に発表した「DXレポート」の中で、企業内にあるレガシーシステムがDXや企業成長を滞らせるボトルネックとなり得ることを報告。「2025年の崖」と称し、ここにあるリスクを指摘した

「『2025年の崖』の何がリスクかといえば、既存のレガシーシステムの移行、改修に経営資源が割かれるために本来進めるべきDXが滞ってしまうこと、そしてこれにより国際競争から大きく遅れてしまうことです。『Clara Cloud』は管理や移行の工数コストを最小にすることができますから、『2025年の崖』を克服してDXを推進していくためにもぜひ活用いただきたいですね。」小松 氏はこのように述べて、講演を締めくくった。